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資金吐き出す株式市場 日本経済新聞

資金吐き出す株式市場
過去5年「自社株買い>調達」200兆円
 
日本経済新聞 朝刊 1面 (1ページ)2019/10/13 2:00

 

投資家の資金をのみ込むはずの株式市場が、投資家に余ったお金を返す場になっている。世界の上場企業は株式発行による調達を減らす一方、市場から株式を買い上げる自社株買い(総合2面きょうのことば)を増やしている。自社株買いから株式調達額を差し引いた「買い戻し額」は過去5年の累計で約1兆8000億ドル(約200兆円)にのぼる。流れが変わったのは2000年代に入ってから。IT企業の成長で産業構造が変わり、企業のカネ余りが鮮明になっている。

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日本経済新聞社がQUICK・ファクトセットとリフィニティブのデータをもとに、世界の株式による資金調達と自社株買いの金額を比較した。金融危機後の一時期を除き、01年以降、一貫して自社株買いの方が多い。企業が調達よりも株主にお金を返す側に回っていることになる。

 返還の勢いは年々増しており、18年は差し引き7200億ドル強の買い戻しとなった。15年からでは計約1兆8000億ドルにのぼる。

 世界の企業の自社株買い額は18年に約1兆3200億ドルと過去最高を記録した。貿易戦争の長期化で企業が投資に慎重になり、余った資金を還元に回す動きに拍車がかかる。米国の法人減税も自社株買い増加の要因だ。日本では企業統治(コーポレート・ガバナンス)改革をきっかけに自社株買いが広がる。

 19年も高水準の自社株買いが続く。米アップルは4月に自社株の購入枠を1000億ドル規模から750億ドル増額した。米マイクロソフトは最大400億ドルの自社株買いを9月に決めたばかり。

 投資マネーが株式から債券へとシフトするなか、自社株買いは「最も期待される相場の下支え役」(米バンクオブアメリカ・メリルリンチのチーフ投資ストラテジスト、マイケル・ハートネット氏)となっている。

 一方、世界の企業による株式市場からの資金調達は14年の7900億ドルをピークに減少が続く。日本では株式による調達額は09年のピークに比べて2割減となっている。

 株式市場からの調達が減っている背景には企業の構造変化がある。IT企業が台頭し、多額の資金を必要とする工場建設などは減少している。設備投資額が頭打ちとなり、企業はカネ余りが鮮明だ。

 また株式価値の希薄化につながるという理由で増資に反対したり、手元資金の還元を求めたりする株主の声は強まっている。有力なスタートアップ企業は未公開のままファンドなどから多額の資金を調達できるようになった影響も大きい。

 低迷する株式発行と対照的なのが年間2兆ドル規模と過去最高の発行ペースとなっている社債市場だ。世界的な金融緩和で、企業によってはほぼ0%の金利社債発行が可能となった。超低コストの社債で調達したお金で自社株買いをする企業が多い。

 米国では債務超過でありながら自社株買いを実施する企業すら存在する。米国市場では実質債務超過の企業が約230社ある。このうち80社近くが自社株買いをしている。こうした企業は短期的な株主還元に傾斜し、将来を見据えた成長投資は後回しになりがちだ。

 株式市場は歴史的に企業に成長資金を供給する場として整備されてきた。だがカネ余りや未公開市場の成長を背景に、その役割は急速に縮小し、逆に資金を投資家に返す場となっている。資本主義を支えてきた株式市場はその存在意義を問われている。

(富田美緒、野口知宏)